原油先物価格マイナス圏へ

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NY商業取引所の原油取り引きの代表的なインデックスであるWTI先物5月限が一時的ではあるがマイナス圏に突入した。4月21日のことである。

同日のWTI現物は約$21/バレルあたりである。先物がマイナスになったということは今後期近に限っては原油の需給バランスが少なくとも今より崩れると予測されたということになる。つまり、需要が減っていくのに対し供給は需要より多くてダブつき原油をどこにストックするかに具体的な不安が広がったと考えるのが妥当だろう。

 

価格がマイナスとはどういうことか。原油を引き取ることでお金を払う換わりにお金をもらう、平たく言うとそういうことになる。お金を払ってでも原油を引き取っていただく。それだけ油田で算出される原油の行き先がないことが(実際そうなるかどうかはともかくとして)懸念されているということになる。

 

この原油の価格動向の報道を聞いて長崎から東京に転勤となって電車通勤をしたときのある種カルチャーショックを受けた時のことを思い出した。

朝JR蒲田駅で京浜東北線に乗り換え田町駅に向かう。朝のラッシュ時にだいたい7分間隔で10両編成の列車が運行されている。長崎駅に着く通勤列車が2両編成で昼間は1時間にだいたい1本であるのとは大きな違いだ。その7分間隔の列車が7分遅れたと謝罪を含めた構内アナウンスが流れたときがあった。7分間隔で7分遅れなら結局同じではないか。東京に来てすぐの頃通勤途中そう思っていた。

 

ところが、である。7分間隔で運行するのはそれだけの理由がある。需要(乗客)が多いから供給(列車の車両、本数)もそれに合わせて設定している。安全上の観点や車両数などの制約もあるのだろうが需要に合わせて列車間隔が決められている。それは満員電車になるという列車でどれだけ乗客を運べるかということだけではない。列車が出た後もホームに乗客は流れる。自宅から駅まで、駅の改札口、ホーム、乗り換えの駅での人の流れ。それぞれ都心に近づくにつれ需要(乗客)が増えていく。7分遅れると列車に乗れない乗客がホームにあふれる。ホームに乗客が滞ると改札口での乗客の流れが悪くなる。乗り換え駅での人の流れも悪くなる。駅に集まる乗客が改札を通ることさえ出来なくなる。つまり、人の身体で表現すると便秘が起きた様に列車の遅れが人の滞留を発生させ混雑が起きる。

 

今の原油価格が意味するものは都会の混雑する通勤列車の人の流れに似ているのではないか。油田で産出される原油という供給(列車の車両数と発車間隔)はサウジアラビアやロシアの思惑が交錯し減らずにいる。一方、海外を飛び回る国際線のフライトは軒並みキャンセルされジェット燃料の需要は激減している。人の流れは滞り工場の稼働率も急減した。原油の需要は激減している。少なくともここ期近の3月、4月、5月は世界的に原油の需要の低さは続くだろう。需要(乗客)が減ると消費されない原油は行き場をなくす。貯蔵タンクが満杯になり一時的なストック場所ともみなされる原油タンカーは消費地の港で荷揚げ出来なくなる。結果として原油の価格は下がり、期近の予想を表す先物がマイナスになった。

 

今起きている原油を巡る価格動向を説明するとこんなところだろうか。問題は下がった原油価格が一時的なものなのか将来どうなるのかである。今より価格が上昇するとしても1バレル当たり$100だった時代はもはや来ないだろう。神のみぞ知るではあるが、昭和の時代の石油ショック以来の大きな時代の流れが到来したと感じる。

 

 

もう一つの観点が原油や石油と米ドルの関係である。国際的な石油の取り引きは米ドルで行われる。というよりも米ドルでしか行われられない。その米ドルで原油が先物価格で一時的とはいえマイナスの価値になった。この歴史的意味が今後どの様な未来を描くのか。そこに注目したい。

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