大学の授業

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学校が閉鎖されて新しい動きが出ているという。オンライン授業を検討したり始めたりしているらしい。パソコンやタブレットが必要になるので主に大学でその動きがあるそうだ。

 

大学での授業を受けたのはもう30年以上前のことである。教養の2年間、学部での2年間、修士での2年間。それぞれ特徴のある授業を受けた。その中で修士で受けたT助教授の授業が印象的だった。

 

T助教授の講義は破壊力学だった。金属が破壊するメカニズムを数式化する、確かそんな内容だったと思う。(もう細かいことも大おおまかなこともほとんど忘れてしまった。)授業中に黒板に数式を書いていく。授業用のアンチョコというかノートを先生は用意してはいるがほとんど見ない。なので黒板がノートであり途中の走り書きやメモも端っこの方に書いてまさにリアルタイムで数式を解いていく。解いていくのだが途中で行き詰まる。何かおかしい。前の数式をたどってどこがおかしいところはないか。間違ったところがないか。数式を前へ前へとたどり検証が始まる。そんな試行錯誤が授業中に起こる。いや、起こすのか?ああ、ここが間違っていた。ここを直すと次にここが直って数式がこう修正され正しい結論が導き出される。そんな授業だった。

 

専門の授業はだいたい同じ内容が毎年繰り返される。もちろん新しい授業が開講されたり同じ授業であっても改訂されたりバージョンアップはなされている。しかし、この破壊力学の授業は当時特に最新の内容であった訳ではない。最初、自分にはその授業は何か手抜きの授業に思えた。準備をしっかりすれば黒板に書く数式を間違えることはない。昨年も教えたであろう数式はきちんとノートに書いておけば次の年の授業でスムーズにスラスラと黒板に書けるのではないか、学生に示せるのではないか。そう思っていた。

 

ところが、である。確か研究室の先輩が教えてくれたのだと思う。(これについてもはっきり記憶していない。)T助教授は授業中に毎年同じ様にリアルタイムで数式を解いているとのこと。さらに、ノートを見ずにその場で数式を解くのも毎年同じやり方だとのこと。数式を間違えて黒板をあちこち移動して数式を見直すのも同様。ひょっとしたら間違える箇所まで毎年同じじゃないの、とまで言い出す始末。そしてここからが先輩の推測なのだが、先生はわざとまちがえているのではないか、と自信ありげに言った。始めは先輩は何をしゃべっているのか分からなかった。

 

数式を初めから間違えずに解くのは至難の業である。間違った際に始めからやり直す手もあるがそれでは時間がかかってしょうがない。なので間違ったと気づいたらそれまで解いた数式をたどりどこがおかしいのかを検証し間違いを正すのがより適切な対応になる。重要なのは間違わないことではなく、間違ったと気づいた際に前の数式に立ち戻りどこが間違えたのか検証する能力である。

 

先輩の説明によるとT助教授は数式を解く際にどこで間違ったかを特定するやり方、検証の方法論を学生に見せているのだ、実地で示しているのだという推測だった。

 

先輩の説明を聞いて何かガーンと頭を叩かれた様な気がした。そうか、そうだったのか。先生の授業は準備不足では決してない。数式の解き方を授業中に実地でデモンストレーションしていたのだ。そう考えて思い起こしてみる。授業中のT助教授の間違えたと気づいたときの冷静な態度。ではどこが間違っているのだろう、とつぶやく様な見ている学生に説明する様なしぐさ。間違ったことで取り繕うことをしていない姿勢に始めは何かふてぶてしさすら感じていた(T助教授、ごめんなさい!)自分の浅はかさが恥ずかしくなった。

 

学生時代のほんのりとほろ苦い、でも楽しい授業の思い出である。

 

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