船の独特の構造として閉囲区画という区画/セクションがある。英語で言えばホールドとかボイドと呼ばれる。ボイドは何もない区画で船体の設計において(防火上の構造や隣接区画との接触を防ぐなどの)ルール上の必要性があって設けた区画ではない。
この閉囲区画にメンテナンスや検査で船員や艤装員が入る必要がでてくる。このとき必ずチェックするのが酸素濃度だ。酸素濃度が18%より下がると危険と言われる。普段締め切っていて空気の流れのない閉囲区画に人間が入る前には携帯のファンを持ち込んだりして空気の流れを作り新鮮な空気をその区画に送る。
酸素濃度のチェックが必要なのは言うまでもなく正常な呼吸が出来るか否かの確認である。通常大気における酸素濃度は21パーセント。18パーセント以下では呼吸出来ない。酸素濃度がゼロではなく何故大気における濃度よりわずか3パーセント減っただけで危険となるのか。
これは人間の身体、肺の呼吸のメカニズムによる。肺の中で酸素を取り入れ二酸化炭素を排出する。つまり二酸化炭素を酸素に置き換える。その際肺の中にある肺胞でその置き換え作業を行う。この置き換え作業を可能にするメカニズムが「拡散の法則」というガス濃度を均一にする働き。
肺動脈から流れてきた二酸化炭素を毛細血管から肺胞に移す。更に肺胞から毛細血管に酸素を移す。二酸化炭素から酸素に入れ替わった血液が肺静脈へと流れていく。このとき「拡散の法則」が成り立ち血液と肺の間で酸素と二酸化炭素が入れ替わるには酸素の分圧に十分な差がなければならない。
すなわち、肺動脈中の酸素濃度より肺胞の中の酸素濃度が高くないと酸素が肺胞から毛細血管へと移動しないのである。一方、肺動脈中の酸素濃度はゼロではない。ゼロではないからその肺動脈の中を流れる血液の酸素濃度より高い濃度が肺胞にないと酸素が移動しない。その最低ラインが18%酸素濃度ということになる。
つまり、閉囲区画内の酸素濃度はゼロでなければ良いわけではない。正確に測って例えば20パーセントの数値を確認してからでないと乗組員であれ艤装員であれ中に入ることを固く禁じる措置を取らねばならない。閉囲区画内の空気ではなく酸素分圧が重要なのである。酸素分圧がある一定以上でないと呼吸出来ないことから酸素濃度が重要になる。酸素があれば良いのではなく確実に濃度の数値をチェックしてから中に入る。その確認作業は人命に関わる。
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