10時10分の時計と船のアングル

一般

造船所で商船をお客様、顧客の会社に引き渡す前に必ずその船の試験を行う。海上運転である。造船所の建造関係者、顧客の立ち合い者、船級の立ち合い者、エンジンなどのメーカからのサービス員、などなどが乗船し2日から長ければ1週間近く戻らず各種試験をこなす。

 

この海上運転の試験航海中に空から船を撮影する。ほぼ完成状態で洋上を航走する写真を撮る機会はこのタイミングしかない。

 

製品が映える見栄えの良い状態とはどういった状態を言うのだろうか。例えば、時計であれば10時10分を指す状態が最も見栄えが良いとされる。船の場合はどうであろう。晴天の青空のもとターンした航跡を後ろに描きながら斜め前方から撮る。自分が長年勤めた長崎の造船所ではこれが最も良いとされる撮影条件であり実際歴代の引き渡し船もこの手法で写真が残っている。

 

海上運転中には必ずしも天気が良いとは限らないが営業担当者が天気予報と睨めっこして大体の撮影のタイミングの日程を決める。大村にある長崎空港から飛ぶセスナ機で写真撮影のエキスパートに依頼し撮影するのである。撮影する際にはデッキに出たりして人が写らない様に船内アナウンスが流れる。一度しかないタイミングなので担当者は緊張するだろう。最もデジタル撮影した写真なら余計なものは後から編集して消すことが今では出来るのかも知れないが。

 

ターンした船をその航跡と共に撮る。これは必ずしも一般的ではないのかも知れない。造船所によってそのプラクティスというか慣例があるのだろう。ある造船所は富士山を背景に船を横から、空からではなく同じ視線の高さから撮っている写真をよく見かける。こういったところでもその会社や造船所のいろんな歴史が隠されているのかも知れない。

 

一度、遊び心で船を撮影するセスナに乗ってみたいと思い営業の知り合いに調べてもらったことがある。自分が担当しない船の海上運転の際に休暇を取ってセスナに乗せてもらえないかなと考えたのだ。結果は不可だった。定員オーバーになるそうな。飛ぶセスナの定員は3人。パイロットとカメラマン、それに機材を載せるのに1人分のスペースが必要だから余分な人員を乗せる余裕はないとのことだった。残念ですけど、、、と気の毒そうに伝えてくれた営業担当者の電話から聞こえる声にフウッとため息をそっとついたのは3年か4年前のことだった。

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