バッハ 無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 サラバンド

一般

ピアノの旋律を言葉で表す。文章に書く。最も難しく困難な作業ではないだろうか。それをやってのけた小説をたった今読み終えた。須賀しのぶ著「革命前夜」である。

 

読んでいる最中に思い出したことがある。7年か8年前になる。家族を病気で失い独りとなって彷徨っていた。そんな時大好きなチェリストが日本に来て演奏することを知った。きっと何かの縁であろう。演奏を聴きに行くことにした。長崎から大阪まで出て来たのである。大阪のシンフォニーホールで催されたヨー・ヨー・マのチェロの演奏。

オーケストラとの共演も素晴らしかったが最も強烈な印象となったのがアンコールにヨー・ヨー・マが選んだ曲ヨハン・セバスチャン・バッハの無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 サラバンドであった。

 

チェロの重厚な曲が終わり拍手がしばらく続く中つくづく来て良かったと思った。コンサートのために旅行するなど初めてのことだった。大阪まで来て良かった。ヨー・ヨー・マの奏でるチェロを聴けてこれまで生きてて良かった。この音を直に聴けて今まで生きていた甲斐があった。本気でそう思った。

 

今同じ曲をきいたとしてどの様な感慨になるのか想像がつかない。深い悲しみの奥底に沈んでいたあの頃その暗闇の中にいたからこそあのチェロがずっしりと響いたのだと確信する。人が奏でる音楽が人を再生する。心に訴えかけて真っ暗闇の中に一条の光が届く。

 

そんな音を紡ぐ音楽家とは普段どの様にその技を磨いているのだろう。どうやって人に訴えかける音を編み出しているのだろう。きっと何度も何度も曲を繰り返し反芻しているに違いない。意識を集中して心を込めてある高みへと自分の曲を自分の音を昇華していく。その作業はきっと孤独で辛く余人には理解出来ない世界に違いない。その日頃の鍛錬が続けていく習慣が音楽には門外漢の人間にでも強く訴えかける音を奏でることが出来るのだ。

 

人が人に感動を与える。そんな素晴らしいことを経験出来た喜びと幸せと幸運。頂いたものを今度はまた別の人に与えたい。人に感動を与える言葉を紡ぐ。そんなことが出来たらどれだけ素晴らしいことだろう。どれだけ幸せなことだろう。

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