映画『アルキメデスの大戦』を観た。結論から言えば大変面白かった。戦艦大和に関してこの映画の切り口は独特だ。特に、造船に関わって来た技師として様々な観点から各シーンに対して思うところがありいずれその様々な観点、項目について一つ一つ自分の見方をまとめてみたいなと思う。(出来るかわからんけど)
原作を読んでないので想像だが題名のアルキメデスは「アルキメデスの原理」のあの浮力についての物理学の法則を発見したアルキメデスのことだろう。鉄の船が何故浮くのか、というテーマに必ず引き合いに出される原理だ。
それはともかく映画の中で描かれたこの様々な観点についてまずは列挙してみる。
・戦艦か空母か
当時山本五十六は早くから海軍の主力が戦艦から空母に置き換わると考えていた(らしい)。後知恵だが日清戦争、日露戦争の勝利体験あるいは成功体験が太平洋戦争における主戦場(という表現は正しい?むしろメインテーマ)が制海権から制空権へと変わったパラダイムシフトを成し得なかったということか。成功体験が変化を拒み次の敗北へと繋がったのか。
・当時の米国と日本の国力の差
表に現れる数値からすれば歴然としていることを言えない。真実だからこそ口に出来ない。読んだのは大分前だが山本七平の「空気の研究」を思い出した。内容はもはや覚えていないが。
・船の見積もり
船を造るのにどれだけのお金が必要か。その物量を積み上げ見積もる。主人公が最初に目論む物量の把握。メジャーで一から類型船の寸法を実測してそこから計画船の物量を推計する。王道というかある意味原始的な見積もりのやり方。積み上げ型の見積もりだ。実際の見積もりは単価(各材料、資材、機器などの1個の価格)と物量を掛け合わせた総計が(人件費などを除いた)見積もりとなる。船を造る時期が同じなら単価は同一と考えて良いが建造時期が異なれば単価は変わると考えるのが自然だろう。映画の中ではこの単価については変動しないという前提でいるのだろうか。映画は当然フィクションなのでそこらへんはご愛嬌というところか。
見積もりについては一つ一つの船のパーツの単価と物量をはじいて積み上げる見積もりに対しもう一つの見積もりのやり方がある。それまでの実績を並べて何かのパラメータを元に見積もりを推定する方法だ。映画ではそのパラメータが鉄の物量、すなわち鉄の重量として選ばれている。普通は並べて比較する建造実績の船は最低でも同じカテゴリーの類型船だが映画の中では戦艦も潜水艦もいっしょくただった。これも愛嬌か。
・建造計画・設計
船の初期設計において船にかかる荷重を想定し強度計算をするのは基本である。(やったことないけど)ネタバレになるが見積もり時の大和の縦曲げ強度が不足しせん断に耐えられず計算上破壊すると指摘するシーンがある。一時期ビルなどの強度を計算上偽っていた偽装問題があった。陸上の建物の強度計算は地震の強さを仮定してなされる。偽装して仮に強度不足でもその想定している地震がこなければ建物が破壊することはない。これに対し船の強度は台風などの波浪の高い状況を想定している。いつ来るかわからないひょっとしたら来ないかも知れない地震と違い船が洋上にいる限り台風に会う確率は高い。台風は避けれても台風並みの波浪に遭遇する可能性は非常に高い。造船において陸上の建物とは違い偽装問題が現実的にあり得ないのはその様な理由からつまり計算の仮定が仮定ではなく実際に十分起こり得る条件のため偽装しようがないことがある。
・数学者が国を救う
主人公の数学者(というか数学を学ぶ元学生)が国を救う(力がある)。同じ時代の英国の数学者でドイツ軍の暗号を解いたというアラン・チューリングを彷彿とさせる。世の中で最も社会に貢献するのは数学者だと日頃から思っている自分としては戦時の危急存亡のときこそ尚更数学者の活躍はその通りだろうと想像する。
それにしても冒頭の戦艦大和の沈没のシーンはリアルで圧巻だった。これだけでも劇場でみた価値はあったと思う。
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