船上で死ぬとどうなるか。

一般

造船所に勤めていたとき長期(と言っても1〜2ヶ月程度)に船に乗船することが2度あった。

通常、船を引き渡す直前に海上試験(海上公試という)で1日から1週間程度、深冷船(LPGC – 液化石油ガス船-やLNGC液化天然ガス船)ではガステストで3日〜1週間程度の試験期間を要する。

 

2度あった長期の乗船は保証技師としての乗船だった。保証技師とは何か。

 

商船を建造し船主や船舶運航会社などのお客様に引き渡す。出来あがった完工した船が従来運航された船の同型リプレースであったり船内のプラントやシステムが馴染みのあるものであれば初めての航海、つまり処女航海の際に乗組員が迷わずオペレーション出来る。しかし、新しいシステムや新しい機器が採用されたり搭載されたりしていればそのオペレーションは試行錯誤しながらの航海になる。船を扱う側もだが造る側も然り。初めてのシステムを搭載する船や初めての機器を積んだ船はそれなりに大小様々な不具合や時にはトラブルに見舞われる。

 

造船所で船が完工し顧客に引き渡される。造船所から目的地までの航海、すなわち処女航海に造船所の代表として乗船し乗組員のサポート、クレームなどを造船所との間に入って処理するのが保証技師である。乗船中の待遇は大体期間長相当が相場の様だ。

 

2回の乗船で共通してあったのが乗船前の契約書へのサインだった。細かい規定の詳細は忘れたがある一節はちょっと引っかかり周りの人に聞いたことがある。

 

その一節とは乗船中に保証技師が亡くなった際の扱いについてだった。一言で言えば、CAPTAIN、すなわち船長の判断に委ねる、ということだった。

 

実際に自分が乗船中に死んだとしたらどうなるのだろうか。答えてくれた人が造船所の仲間だったか客先の乗組員だったかは、それすらもやはり覚えていないが大体2つのパターンがあるらしい。

 

一つは、次の目的地まで運ぶということだ。そこで荷揚げする。代理店が手配して祖国に輸送するといった手筈になるのだという。

 

もう一つは、海にドボンと落とすというものだ。白い布で死体を覆い船尾から海に葬る。その後その落下地点を中心に1回りして汽笛を鳴らして後にする。これが昔の船内で亡くなった乗組員への花向けというか死者への礼儀といったものだったらしい。

 

一つ目の方法は亡くなった乗組員や保証技師の家族や親族にとって切に望まれる扱いだろう。一方で、乗組員にとっては気分が重いものらしい。亡くなってから次の目的地(寄港地)までは死体の腐乱防止のために考えられるのは冷凍庫に置くということだ。死体置き場専用のスペースや部屋が一般の商船に用意されている筈もなく、肉や野菜や魚を保存する冷凍庫しかない。すなわち、料理人は否が応でも毎日接しなくてはならない。料理する際に素材を取りに行くのが冷凍庫だから。

 

これに対し、二つ目の方法は逆で乗組員にとってはある意味気持ちの整理がつくものなのだろうか。保証技師はともかく、乗組員にとっては自分の死体が海に葬られるのは本望ではないか。いやいや、そんなことは一概に言えるものではなく、やはり乗組員にだって家族はいるだろうし親戚もいるだろう。やはり、魂が離れた死体であっても故郷や住んでいた陸上に帰りたいと思うものかも知れない。

 

いずれにせよ、判断は船長に委ねられるそうだ。実際には、陸上の支援部隊と相談するから船長の一存という訳にはいかないだろうが。

 

そう言えば、客船を建造している頃、客船には必ず牢屋と霊安室が準備されていると聞いたことがある。牢屋は乗船中に暴れたり気が狂ったりした人を拘束する場所として使うらしい。霊安室は言わずもがなだが乗船中に亡くなった人を安置する場所である。これも確かめたことがないしG/A(General Arrangement、一般配置図)を見てもその様なROOMの記載は無い。まあ、あったとしても表現は一般の客室だったり別の表現で記載されているのだろう。

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