海水設計温度は32℃

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10月12日から13日にかけて日本東部を襲った台風19号は広い範囲に甚大な被害を及ぼし相当な爪痕を残した。赤道直下で台風が発生した直後に既にはっきりと台風の目が現れており相当大きな台風だなと直感した。一昔前なら10月に発生する台風自体稀であった。台風の経路によるが大抵は沖縄など南方か九州がそのルート上にあり被害を心配することはあった。一方、本州を襲うルートは雨の影響が心配な程度で雨と風の影響を心配する台風の怖さはさほど感じたことはない。もともと比較的大型の台風でも日本に近づけばかなり勢力は衰え本州を通過する頃には洋上での台風の勢いはなかったからだ。

台風は太平洋の赤道の北側で発生する。洋上で生まれるのでそのエネルギー源は海水温度の影響が大きい。温度が高ければ高いほど水蒸気の量が増え発生した台風は巨大化し易い。

 

商船の機関部プラントの設計において海水の設計温度は32℃である。設計標準としてあるのだが日本近海でそれほど高温になることはない。せいぜい27℃か28℃である。実際28℃になると少々高いなという印象である。おそらく赤道直下などのごく限られた地域で30℃を超える海水領域があるのだろう。しかしやはり近年海水温度は全体的に上昇しているという印象である。はっきりと統計を取ったわけではない。しかしプラント設計において冷却システムは基本的な重要構成要素である。一般的なプラントの構成としてセントラルクーリングシステムを採用して船内のエンジンを含めた機器は清水で冷却しその温まった聖水を船外から取り込んだ海水で冷やす。機器に送られる清水温度は38℃、もしくは36℃である。海水温度と清水温度の乖離が大きければ大きいほど冷却し易い。逆に、両者の温度の差が小さければ冷却されにくくなり海水と清水の量を増やす必要が出てくる。船の引き渡し直前の海上運転でそのプラントの性能を確認するのだがもともと設計温度と実際の海水温度には差がありその差が設計の余裕度でもある。その余裕の分だけポンプの流量調整をバルブの開閉度調整で行うのが通常のやり方であった。プラント出来立ての新品の機器立ち上げはともかく船引き渡し後経時変化によって冷却器が汚れてくるのでメンテナンスの必要が出てくる。このメンテナンスの頻度は設計の余裕度が直に影響してくるので実際の海水温度が上昇すると微妙な影響を及ぼすことになるだろう。

 

観点を変えると、世界的に問題となっている地球温暖化は待機温度のみならず海水温度も大きな問題である。その海水温度の上昇を止めるかもしくは上昇のスピードを抑える議論となれば洋上を行き交う船舶が海水温度を上げている影響について取り上げられることになるだろう。船内プラントの冷却システムは船外に目を向ければ海水を温めていることになるからだ。

 

窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素の排出規制を強めていった国際海事機関IMOが引き続き音頭を取ることになるだろうが大気への排出規制のみならず海水への排出規制が今後広まっていく可能性がある。

 

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