DEAD SHIP/デッドシップからの立ち上げ

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造船所で商船機関部設計技師として25年余り働いてきた。業務の内容は様々だった。船の計画段階から船主ネゴ(交渉)、仕様書作成、機関部機器構成検討、機器要目計算、プラント設計、パイプダイアグラム作成、機器仕様書作成、機器メーカ選定、艤装品調達、機器納期設定、主機工場試験立ち会い、船内各種機器作動試験/性能確認、係留運転、海上公試、引き渡し、アフターサービスなど。

 

なかでも海上公試は機関部関係者にとっては一連の建造段階でのクライマックスと言って良い。その海上公試において通常の船舶の運航においては扱われない様なオペレーションについて紹介したい。大抵は船の一生においてほぼ操作されることのない一度か二度かあるかないか。多くても数回あるとはほとんど考えにくいものである。

 

最初はDEAD SHIP/デッドシップからの立ち上げである。

 

デッドシップとは何か。船を立ち上げるとき、つまり発電機を回し船内に電力を供給しその電力で圧縮空気を作りその空気を主機に送ることで主機を始動させる。その最初の冷態状態のことを言う。

 

つまり機関部プラントにおいて主機も発電機関もボイラも冷態状態(Cold Condition)でかつ発電機関を始動させる圧縮空気タンクも空の状態、蓄電池の電力もない状態である。

 

このデッドシップから主機(推進軸系を駆動するエンジン、すなわちプロペラを回すエンジンのこと)を立ち上げるまでを30分以内で行わねばならない。この辺りはSOLAS/Safety of Life at Sea条約に明記されている。またこのSOLASをベースにClass NK/Nippon Kaiji Kyokai/日本海事協会などの船級協会の鋼船規則により細かく規定されている。

 

海上、洋上、岸壁においての人命を守る為の規則であるから船をお客様に引き渡し使って頂く前に船の性能や機能が所定のルールを満足するかを確認するのが海上公試の目的である。なのでこのデッドシップからの立ち上げも試験項目の一つとなっている。

 

では、どの様な手順でデッドシップから船を立ち上げるのか。乗用車ならバッテリーでエンジンを始動させるのでキーを回すだけで済む。船の場合はその始動用の機器がどうあるかで手順も異なる。一般的なのは非常用発電機関を始動させ非常用電源を確保する。その非常用電源で主要な電力を供給しその非常用電力で主発電機関を始動する。これにより主圧縮空気タンクに空気圧縮機から圧縮空気を供給する。これにより主機を起動する電力と圧縮空気を確保し主機を始動させる。

 

最初にデッドシップからの立ち上げ手順はその船の非常用起動電力機器や圧縮空気機器によって変わる。一つの典型的な例を示そう。

【機器構成】

・非常用発電機/発電機関(ディーゼルエンジン)

・非常用発電機関起動用バッテリー

・発電機/発電機関(ディーゼルエンジン)

・主機関(ディーゼルエンジン)(プロペラ推進)

・主機関起動用主空気圧縮機&主圧縮空気槽(タンク)

 

【立ち上げ手順】

(1)非常用発電機関起動用バッテリーにて非常用発電機関を起動し非常用電源を確保する。

(2)非常用電源で主空気圧縮機を始動し主空気圧縮空気タンクに充填する。

(3)(2)と同時に非常用電源で主発電機関を起動し船内の主電源を確保する。

(4)主機関を起動する。

 

立ち上げに要する時間は30分以内と規定されているためそのルールを満足する各機器の仕様(性能、容量)が設計時に計画され設定される。

 

ただし、造船所で船を完工し顧客に引き渡され以降実質船の一生でこの完全なデッドシップになることは通常考えられずこのオペレーションは行われたという話しは個人的には聞いたことがない。なのでデッドシップからの立ち上げというオペレーションは引き渡し前の造船所で海上公試(あるいは岸壁において係留運転)で行われる機器作動確認と性能確認を兼ねたルール規定を満足する確認のためのパーフォーマンス(とは言い過ぎか)と言える。

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